近年までの転職における「売り手市場」が、コロナ禍で「買い手市場に」に変わったのではないか--。

最近、企業の採用担当者からそのような相談を増える機会が増えました。2021年5月の有効求人倍率(季節調整値)は、1.09倍と前年5月を0.11ポイント下回っており(厚生労働省調べ)、この数値だけ見ると「企業にとって採用しやすい時期になった」と見ることができそうですが、感覚値としては、相変わらず母集団形成に苦労している企業が少なくありません。ここではデータも参考にしながら、母集団形成に適した手法、適さない手法について解説していきます。

この記事を書いた人

平井 伴弥(キャリアバンク株式会社 代表取締役社長。これまで中途・新卒採用領域でのべ200社以上の大手~ベンチャー企業の採用支援を行う)

中途採用における母集団形成とは?

中途採用における母集団形成

採用活動においては、まず人材を募集していることを広く知ってもらい、応募者・候補者を集めなければ何も始まりません。この応募者・候補者の集団を「母集団」といいます。新卒採用の場合は大学の就職課を通じて、あるいはリクルートサイトを活用することで多くの学生にアプローチできますが、転職者の採用では様々な採用チャネルを活用しなければ対象となる候補者に出会うことすらできません。かといって、多くの採用チャネルを使うには、お金や労力といったリソースが必要になります。

また、即戦力を期待することが多い中途採用では、質も重要です。このような点を踏まえて、自社の母集団形成に適した採用手法を選定しなければなりません。

それでは、今、母集団形成に適した手法は何でしょうか。株式会社マイナビの『中途採用状況調査2021年』(2021年1月14日~20日に実施)では、「中途社員採用に結びついた募集方法と採用者数」について、下図のような結果が出ています。

マイナビグラフ

これらを考慮し、また私自身の肌感として、今年の中途採用における募集団形成のためにおすすめしたいのは、次の4つの手法です。

転職サイトを活用する

リクナビNEXT出所:https://next.rikunabi.com/

リクナビNEXTやマイナビ転職、dodaなどの転職サイトは、中途採用の王道とでも言うべき採用手法です。様々な新しい採用手法が出てきた近年でも、多くの企業の母集団形成に貢献していることがデータからも分かると思います。特に大手転職サイトはマーケティングに力を入れていることもあって、多くのユーザー(=転職希望者)が集まります。特に2020年4月頃からは、コロナ禍の影響で多くの転職サイトで掲載求人数が大幅に減少しました。

転職したいのに求人が少ない、つまり1つの求人に対して応募が集まりやすい状況だったことも、採用人数増加(2019年の平均3.6人に対して、2020年の平均値は4.2人)につながっています。実際に、私が採用を支援した企業も多くが例年よりも応募者が増加し、採用に至ったケースが増えています。

転職エージェント

doda
出所:https://doda.jp/consultant/

転職エージェントを利用するメリットは、初期費用がかからず、ある程度自社や採用条件に合った求職者を紹介してもらえること。転職サイトの場合、採用担当者が応募者データを一件ずつ確認し、自社の募集要件にまったくマッチしていない応募者であっても、合否連絡等の対応をする必要があります。しかし転職エージェントを活用すれば、アンマッチな応募者は転職エージェント側で弾いてくれるため、採用担当者の負担をより軽減することができます。

最近は『エージェントオペレーション』のような、転職エージェントが利用するプラットフォームサービスもあり、より短い期間で母集団を形成できる点に魅力を感じ、大手企業からベンチャー企業まで幅広い企業において導入が進んでいます。

また、求職者側の意識も変化しており、近年は転職サイトではなく、転職エージェントを通じて転職活動を行う人が増えているようです。転職サイトとは違い、転職エージェントでは、担当者が様々な悩みや疑問に答えてくれます。実際にこれまで数多くの転職者と面談してきましたが、最近は「エージェントを通じて転職した」という人が確実に増えています。求職者にとってもエージェントが自分に合った会社をお勧めしてくれる上、内定に至る可能性が高く、効率的に転職活動を進められるからでしょう。

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ダイレクトリクルーティング

リンクトイン
出所:https://jp.linkedin.com/

ダイレクトリクルーティングとは、企業が求人サイトや転職エージェントなどを通さず、直接求職者にアプローチする採用手法です。広義のダイレクトリクルーティングは、LinkedInやLINEなどのSNSを通じて求職者に直接メッセージを送ることも含めるようですが、ここでは「ダイレクトリクルーティングサービス」を利用するケースについて考えていきます。

ダイレクトリクルーティングサービスでは、そのサービスが持つ求職者のデータベースから、採用要件に合う人材のみにアプローチできるため、特に経験やスキルを重視した即戦力を採用する場合は向いています。求職者1人ひとりに合わせたきめ細やかな対応ができる、対人スキルやコミュニケーション力の高い採用担当者は成果を出しやすいのがメリットです。

リファラル採用

リファラル採用は新しいようでいて、実は古くからある採用手法です。いわゆる「社員の知人などを紹介してもらって採用する」ことで、中小企業などでは古くからおこなわれてきました。近年改めて注目されているのは、会社をよく知っている社員の紹介なのでミスマッチが起きにくい、転職サイトやエージェントなどに比べて採用コストが低く抑えられる、といったメリットに着目されてきたからでしょう。

ただし、あくまで「社員の紹介頼み」になるため、リファラル採用で充分な母集団を形成しにくいのが現実です。上手く運用している企業は、「入社が決まった場合、紹介してくれた社員に謝礼として●万円支給する」など、紹介する社員にとってもメリットとなるような制度を作っているケースが多いようです。

【番外編】母集団形成におすすめしない方法

母集団形成におすすめしない方法

それでは、逆にどのような採用手法が母集団形成に向いていないのでしょうか。グラフの中で特に目立つのがSNSと新聞の求人欄、折込求人誌の3つです。

SNS(ソーシャルリクルーティング)

特に若手層を中心に利用者が多いSNSは、一見採用ツールとしても有望に思えます。実際、あなたもFacebookやTwitter、Instagramなどで自社の魅力を発信する企業を見かけたことがあるのではないでしょうか。こういった「多くの人に自社について知ってもらう」という採用広報の観点からは有効ですが、継続的に情報を発信していく必要があります。

また、採用において求職者の経験やスキルを見ることが多い中途採用においては、SNSを通じてアプローチすると「下手な鉄砲も数を打ちゃあたる」状態になりがちです。相手の経験やスキルをSNS上のデータから読み取れるとは限らないため、「やり取りしてみたら、まったく候補者にはなりえない人材だった」という空振りが多いのです。

新聞の求人欄

これについては、私に限らず多くの方が実感できるのではないかと思います。新聞の発行部数は、2000年の約5370万部から、20年で約3509万部まで減っています。例えば、日本で一番発行部数が多いと言われる読売新聞は、約770万部(出典:読売新聞広告局ポータルサイト メディアデータ)。少なくとも770万人の人が読んでいる、と考えることもできますが、そもそもそれらの人の中に、採用の対象となる人材がどれだけいるでしょうか。転職サイトという専門の採用媒体があり、しかも様々な採用チャネルが存在するこれからの時代において、新聞の求人欄で転職先探しをする求職者は減る一方でしょう。

折り込み求人紙

新聞の求人欄では多くの人に求人情報が届けられないのと同様、新聞折り込みチラシの求人広告も、これまで以上に「見られない媒体」となっています。実際に見てみるとお分かりかと思いますが、新聞折り込み求人紙はパートやアルバイトの採用がほとんど。地域密着型の企業が非正規職員を採用するのには向いています。

4000社の人材紹介会社を活用して素早く母集団形成ができる「エージェントオペレーション」とは?

エージェントオペレーション
出所:https://agent-operation.com/

母集団形成に苦戦している企業にお勧めのサービスが「エージェントオペレーション」です。簡単にいうと、企業に代わって多くの転職エージェントとのやり取りを代行してくれるサービス。全国約4000社のエージェントの中から、その企業に合うエージェントを100~150社選び、それらのエージェントに向けた企業説明会で自社をアピールすることで、有効応募を増やすことができます。各エージェントとの契約は不要で、エージェントとのやり取りも代行してもらえるため、採用工数も大幅に削減できます。

少子高齢化が進むことによって、特に20~40代の就労者は減少する一方で、企業の中途採用も難しくなっていきます。一つの採用手法だけに囚われるのではなく、その時代にあった手法を取り入れたり、様々な手法を組み合わせたりして母集団を形成することが必要です。