【打倒アマゾン】消費者との接点で生き残るには?――働きがいに困らない未来の業界研究(下)流通・小売業編

最終更新日:2021/08/25

転職などでこれからのキャリアをさらに充実させたい人に向けた「働きがいに困らない未来の業界研究」。最終回となる3回目は、ここ30年で最も大きな変化に直面したBtoCビジネスであり、わたしたちの生活にも直結している「流通・小売業界」を取り上げます。

この記事を書いた人

三河 主門(ジャーナリスト)。大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。記者として企業取材を長く担当。日経ビジネス編集部やバンコク支局長などを経て、「日経MJ」「日経産業新聞」でネット&IT、国際・アジア関連の担当デスク。2017年に退社し、同年11月にメディア・コンサルティング&PRの「Mikawa&Co.合同会社」を設立。文部科学省と民間企業の官民協働海外留学推進プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」の広報・マーケティングチームにも参画した。著述業では日本経済新聞電子版「NIKKEI STYLE」、朝日新聞社「ツギノジダイ」、月刊誌『Discover Japan』(建築家・隈研吾氏の企画連載)、月刊誌『Forbes JAPAN』、デーリー東北紙にコラム『私見創見』などに定期的に執筆。著作に米プライベート・エクイティ大手のカーライル・グループの日本戦略を描いた『カーライル流 日本企業の成長戦略』など。

「アマゾン・エフェクト」のパンチ力から業界を分析

Amazon

本連載は「これからどんな業界が成長し、どこで働けば『一生食べていけそう』なのか」という、就職を希望する人にとって重要なテーマを考えてきました。その観点からすると、流通・小売業というのは「安定している」とは言いがたい業界かもしれません。

戦後から高度経済成長期にかけての消費文化をけん引した百貨店は廃れ、「価格破壊」で全国にその店舗を広げたダイエーのような総合スーパー(GMS)も2000年代に入ると縮小・撤退を余儀なくされました。代わって台頭してきたコンビニエンスストアも今ではコロナ禍と人手不足が相まって24時間営業の見直しを迫られています。経済産業省「商業動態統計」によると、2019年には12兆を超えた国内のコンビニ販売額は、2020年にはコロナ禍の影響もあり前年比4.4%減の約11兆6400億円と落ち込み、成長力に陰りがみえてきました。

さらに、ネット通販の普及・拡大も物販業界全体に大きな影響を与えました。「アマゾン・エフェクト」(Amazon Effect=Amazonによる影響)という言葉も生まれるくらい、米Amazon.comによって多くの業種で小売店が「顧客を奪われてしまう」現象が起きてきました。

生鮮食品や日用品といった日常的に消費するものでも、女性ではネット購買が増えています。アサヒビールなどの持ち株会社であるアサヒグループホールディングスが2018年に実施した調査では、女性がネットショッピングで買う商品では1位がファッション、2位が化粧品・スキンケア、3位が日用品・生活雑貨、4位が食品(生鮮食品・コメ・油など)となっていました。2021年には、さらに多くの人がネット購入へとシフトしていることでしょう。

5〜10年で破壊される9つの業界

今後破壊される業界

Amazonだけではありませんが、今後20〜30年の小売業界を考えていく上で、ネットの活用は欠かせない条件になっていくことが確実です。テック系ウェブメディアの米CBインサイツが2020年11月に打ち出した「Amazonが次に破壊する9つの業界」という記事が話題です。1999年に書籍のネット販売で創業したAmazon.comですが、ご存知の通り、その後はさまざまな分野の商品を扱い、安く販売することで“ゲームチェンジャー"となってきました。書店では米国内では業界2位のチェーン店だったボーダーズ・グループが2011年に破綻し、玩具では専業小売店だった米トイザラスが2017年に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請した。百貨店もJCペニー、シアーズ・ホールディングス、ノードストロムなど大手・老舗が店舗閉鎖や撤退、廃業に追い込まれましたが、これもアマゾンエフェクトだと指摘されています。
CBインサイツの記事によると、このような「破壊(Disrupt)」が次に起こる米国の業界が、以下の9業界だと予想しています。

今後5年間で破壊される業界

  • ①薬局
  • ②中小企業向け融資
  • ③受注配送と物流
  • ④生鮮食品
  • ⑤決済
  • ⑥保険
  • ⑦高級ファッション
  • ⑧スマートホーム
  • ⑨ガーデニング

日本でも「①薬局」は今後、厚生労働省の認可が進めば調剤薬局のオンライン化なども進むでしょう。「②中小企業向け融資」についても従来型の銀行を通したものは中小企業などでは相当に減ってきています。「③中小企業向け融資」についても同様で、ネットでの与信・審査を経ての小口融資の実績がフィンテック企業などで増えつつあります。そういった意味で、訪れる未来の様相が想像しやすいかもしれません。

デジタル&ネットの「長所」を取り込めるか

デジタル&ネット

「⑤生鮮食品」や惣菜については近所のスーパーなど店舗で買う人の方がまだまだ多い印象です。ただ、コロナ禍で料理のデリバリーがアプリを通じて簡単にできるようになり、それを利用する人も飛躍的に増加しました。地方でも都市部でも超高齢化が進んでいる日本では、運転免許証などの自主返納などで「自家用車が使えない」という老人が増えてきています。そうなると今後、生鮮食品についても「その日のうちに簡単に届けられるなら買いたい」という需要が増えてきそうです。

「⑧スマートホーム」については、米国と日本では住宅を取り巻く事情や環境がだいぶ異なるので、未来の予想図は見通しにくいかもしれません。ただ、CBインサイツの記事で紹介している防犯センサーやエアコンのオン・オフなどをより高度にするシステム、キッチンまわりのIT化製品、ペットの見守り様デザインなどの製品は日本で「家電の一部」としてすでにネットでの販売が主流になっています。

「⑨ガーデニング」についても、現在は街中の店舗が中心でしたが、今後はネット販売が主流になっていくのかもしれません。⑤生鮮食品にも関連しますが、メルカリなどでも「自宅(自社農場)で採れた野菜や花」や「(サボテンなどに似ている小さな)多肉植物」などは人気のカテゴリーになっています。コロナ禍で家にいる時間が長くなったこともあり、園芸関連は市場が拡大している面もあります。

Amazonは「2018年に園芸店(カテゴリー)を立ち上げた結果、消費者は植物をサイズや(土地の)気候条件、日射量などの基準で選べるようになりました」と利点を強調しています。従来なら詳しい人でなければわからなかった基準で植物をより分けられ、買えるものを選べるようにした利点は確かに大きいでしょう。

「接客」は不滅、デジタルと共存できる企業が生き残る

接客

こうした視点で見るとわかるように、ネットの利点やデジタル化の長所を十分に取り込みながら、消費者(顧客)に新しい価値を提供できるような企業であれば、今後の20〜30年を生き抜く条件を備えている、と見ることができます。

一方で、2040年になると全ての人がネットだけでショッピングをし、だれもリアルな店舗を訪れなくなる――ということは考えにくいと思います。ネットでの買い物比率は高まっても、「お店に出かけていく楽しみ」「売り場で思いがけないものを発見する喜び」は、各地を旅行するのと同様に魅力が色あせることはないからです。

緊急事態宣言が続いている2021年夏の時点で、新型コロナウイルス感染症のまん延防止のために酒類を提供できない外食・飲食店は青息吐息の状態に追い詰められています。それでも家族や仲間と一緒に味わう外食の楽しさ、歓びというものは永遠に残り続けます。

その楽しさ、喜びのために重要になるのが、実はリアルでの「接客」です。特別な日のための食事の場で、接客というプロの技はますます重視されていくことになります。これは物販の現場でも同じでしょう。AI(人工知能)を活用した個人客へのオススメ(リコメンド)機能など、これまで接客のプロが受け持ってきた範囲をデジタルが代替する場面は確かに増えるでしょう。それらを駆使しつつも、顧客が「満足した状態を超えて感動する」ところまで知恵とサービスを磨けるか、といった高度なレベルでの接客が求められるようになるのかもしれません。

いささかハードルは高いですが、これまではネット&デジタルの活用が後れた企業で働いたとしても、「リアルに接することで感動を与えられる水準のサービス」を実現できれば、各界から注目を集める人材になれたものでした。今後はネット&デジタルを駆使することができれば、より感動を与えるサービスを提供できる人になりやすくなるといえます。

PAGE TOP ↑