一生食べていける仕事とは?―働きがいに困らない未来の業界研究(上)ウェブ&IT編

最終更新日:2021/07/08

「これからどんな仕事が成長していくのか」「どんな職に就けば『一生食いっぱぐれない』のか」。これは、新卒の学生だけでなく、すでに社会で働いている私たちにとっても、関心が高くて興味を惹かれる重要テーマですよね。

多くの日本人が20歳前後で働き始めて、定年を迎える60代から将来は70歳ごろまで、約40年を「いかに稼ぐか(収入を得るか)」を考えて生きていくわけです。ましてや、医学や化学の発展により長寿化がすすんだ先進国では、「人生100年時代を迎えた」なんて言われています。働く期間が長くなるとしたら、やはり成長力が高くて自分自身もながく活躍ができそうで、収入の見返りも大きい仕事に就きたいと考える人が多いでしょう。

筆者は経済ジャーナリストとしてイノベーション(技術革新)などを取材する機会に恵まれています。もともとは日本経済新聞社の記者としていろいろな企業の取材、業界の取材をしていました。今でも企業やビジネスに関連する取材が多く、またイノベーションや新規事業開発、スタートアップについての記事を書く機会も多くあります。

そこで、最近のさまざまなイノベーションやテクノロジーについてのニュースや調査リポートなどを大づかみしながら、「2040年ごろまで、どのような業界・分野が成長し、どんな就業のチャンスがあるのか」について考えてみたいと思います。

この記事を書いた人

三河 主門(ジャーナリスト)。大学を卒業後、日本経済新聞社に入社。記者として企業取材を長く担当。日経ビジネス編集部やバンコク支局長などを経て、「日経MJ」「日経産業新聞」でネット&IT、国際・アジア関連の担当デスク。2017年に退社し、同年11月にメディア・コンサルティング&PRの「Mikawa&Co.合同会社」を設立。文部科学省と民間企業の官民協働海外留学推進プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」の広報・マーケティングチームにも参画した。著述業では日本経済新聞電子版「NIKKEI STYLE」、朝日新聞社「ツギノジダイ」、月刊誌『Discover Japan』(建築家・隈研吾氏の企画連載)、月刊誌『Forbes JAPAN』、デーリー東北紙にコラム『私見創見』などに定期的に執筆。著作に米プライベート・エクイティ大手のカーライル・グループの日本戦略を描いた『カーライル流 日本企業の成長戦略』など。

ウェブ&ITの成長は“鉄板”、通信高速化が生み出す「別世界」

インターネット

まずは過去十数年にわたって世界を変えてきたインターネットの世界は、今後どうなるか。やはり、その成長可能性は大きく、業界としては「鉄板の強さ」を持っているといえます。

1995年に米マイクロソフトがパソコン用OS「Windows95」を世に送りだした前後から、インターネット世界は人々をつなぎ、人々の職場や生活に入り込み、新しい世界――ビジネスや生活様式やエンターテインメントなど――を創り上げてきました。

このインターネットに関連したウェブ系の仕事や、その基盤(インフラなど)を支えるIT関連のビジネスが「細っていく」と考える人は(常識的な感性を持つ人なら)ほとんどいないでしょう。

既存ビジネスのDX化がGAFAの正体

GAFA・DX

2021年6月に話を聞いた米国在住の日本人ベンチャーキャピタリストのM氏は、ウェブ&ITの世界のことを、こう表現しました。
「GAFA(米企業のグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)などアメリカIT業界で成長した大手企業は、広義の意味で『既存の分野にDX(デジタルトランスフォーメーション)をもたらしたにすぎない』と言えます」

どういうことでしょうか。DXとは簡単に説明すると「デジタル化によって便利にする」ということだ。例えば、本のネット販売から始まったアマゾンは書店のDX、グーグルやフェイスブックなどは広告ビジネスのDX、ウーバーはタクシーのDX、エアビー・アンド・ビーはホテルのDXだとM氏は喝破したわけです。一言でいうと、これまでITがなくて非効率だったリアルの様々な商売・ビジネスに「デジタルを持ち込んで効率化した」という単純明快さです。

もちろん、書店だってホテルだって、おそらくは従来からパソコンを使って作業をしていたでしょう。それに加えて、ネットでつながった個人が「簡単に物を買ったり、予約できたりする場所(プラットフォーム)を作り上げた」ことが、このベンチャキャピタリストのいう「DXの正体」です。
 
昭和から平成の前半あたりまでは、本の取り寄せは書店を経由するしかなく、しかも「紙の伝票」に欲しい本のタイトル名や著者名などを書いて取次から取り寄せるのが一般的でした。旅行のチケットだってホテルの予約だって、旅行会社やJRの「みどりの窓口」に並ぶのが一般的でした。それが今や、スマートフォン一つで簡単にできます。

だれもがネットにつながり、マスメディア化する時代

だれもがネットにつながり、マスメディア化する時代

2007年に米アップルのスマホ「アイフォーン(初代)」が登場した頃から、インターネットは「個人がどこからでもアクセスできる世界」になりました。パソコンを持たない子供やお年寄りでもスマホでネットにつながり、ネットの海に漂うあらゆる情報にアクセスでき、自分からコンテンツを世界に向けて発信できるようになったわけです。

従来なら新聞やテレビといった資本力のあるメディアしかできなかったマスへの配信が、個人でもテキスト(文章)や写真、そして動画などで可能な時代になったのです。旅行代理店はほぼ必要なくなり、書店もただ本を並べて売るだけで利益を出すのは難しくなった――。つまり、デジタル化に乗り遅れた産業ほど、ネット時代には衰退するしかなくなってしまったわけです。

そして、スマホが登場した時には3Gだった携帯電話無線通信の速度は、2010年代には4Gになり、20年代からは5Gが本格普及機を迎えて飛躍的に高速・大容量化が進んできました。通信は、ネットで大量の情報を素早くやり取りする土台です。4Gから5Gになると通信速度は最大100倍になる計算です。2時間の映画をダウンロードするのに4Gで数分かかっていたのが、5Gでは2〜3秒で完了するといわれます。

すべての「モノ」がネットにつながり緻密な情報網となる

IoTの世界へ

そして2030年ごろには6Gが始まるとみられており、さらに速度は5Gの100倍になる。つまり、さらに大量の情報を送受信できるようになるわけです。世の中は個々人がスマホでやりとりしていた時代から、今度はあらゆるモノがネットにつながり情報を相互に通信できるIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の時代になると予測されています。

新型コロナウイルスが世界に広まったことを受けて、「密を回避」するために繁華街のような街中や大型ショッピングセンターで人の流れや人出の量を把握できる技術が知られるようになりました。これも、社会の様々な場所に設置されたセンサーや店内に設置したカメラが、人の集まり具合をAI(人工知能)で瞬時に把握できるようになったからです。そうしたネットワークが、社会全体に張り巡らされ、大量のデータが6G回線を通じて遅延なく、リアルタイムで把握し識別できる時代がくるわけです。

このようなIoT時代になると、これまでデジタル化が後れても「なんとかなっていた業界」も大きな波に飲まれるようになるでしょう。

住宅、教育、医療の各業界が変革の波に洗われる

6月下旬、東京都副知事で元ヤフー社長だった宮坂学氏がツイッターで、マーク・アンドリーセン氏の記事を引用・解説していました。アンドリーセン氏はインターネトの黎明期に初期のブラウザーを開発・製品化した「ネットスケープ」という会社など複数を立ち上げた起業家です。現在はベンチャーキャピタリストのかたわらで、自らのメディア「Future
を運営しています。
 
そのアンドリーセン氏が指摘したのは、1998年から2019年にかけてテクノロジーによって多くの製品やサービスの価格が下がっている中で、「住宅、教育、医療はむしろ価格が高騰していること」でした(下の図を参照)。つまり、ネットとデジタル化の恩恵がまだまだ浸透していない分野(住宅、教育、医療に属する様々な分野)での価格高騰がはっきりと示されているというのです。そしてアンドリーセン氏は「今後10年間で、これらの(高騰が続いた)価格曲線を崩し、むしろ逆転させるような新しい技術、ビジネス、産業を構築できるようにすべきだと考えている」と述べたのです。

住宅、教育、医療はむしろ価格が高騰している

引用:https://startuptimez.com/marcandreesen/future

つまり、住宅・不動産や教育、医療はテクノロジーとデジタル化の進展によって今後、大きく姿を変える可能性が高いということです。それは裏を返せば、その分野でデジタル化に対応が遅れた企業はこれからどんどんと退潮・衰退していくと公算が大きいともいえます。デジタルテクノロジーを活用して新しい発想をこうした業界に持ち込んだスタートアップやベンチャー企業は大いに成長する可能性がある一方、旧来型の経営に甘んじている企業は危機に瀕するかもしれないのです。

人材紹介会社や転職支援サービスは今後、こうした予測の元に「大量採用を求めている企業」を探していくでしょうし、そんな時代にふさわしい経験や実力を持った人材を探し求めることになります。

2011年に「Software Eats The World(ソフトウェアが世界を食らう)」という小論文を書いて今のデジタル優位の社会を予言したアンドリーセン氏は、上記の記事で「ソフトウェアは現代の錬金術。ソフトウェアが現実世界に接触するあらゆる場所で、現実世界はより良く、より安く、より効率的に、より適応的になる」と断言しています。

「ウェブ&IT業界が今後も成長する」という単なる予想の枠組みを超えて、どんな業界が次の波に乗っていくのか、そして波に飲まれて没するのかを予測してみましょう。そうすることで、今後20年間に伸びていく業界が見えてくると思うのです。

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